代償金を分割で受領する遺産分割協議において、支払を確実にするために相手方が取得した遺産に抵当権を設定したケース
事案の内容
お客様のお母様はマンションや預貯金を残してお亡くなりに、相続人はお客様と姉の2人でした。預金などの金融資産の詳細は姉しか把握しておらず、また、マンションは姉の側で使用しており、お客様が姉に遺産分割の話し合いは持ちかけても一向に進展が見られない状況でした。
当事務所の活動内容
当事務所がお客様の代理人となり、姉に内容証明郵便を送付し、まず金融資産の詳細を開示することを求めました。これによりある程度金融資産の状況が分かったのですが、不十分だったため、さらに当事務所がお客様を代理して金融機関に直接照会したり、弁護士会照会制度(23条照会)を利用して、詳しい情報を収集しました。これにより遺産の全体が明確になりましたが、相続開始後に預貯金から姉が金銭を引き出している事実も確認できました。
以上により明らかになったところを前提として姉との間で遺産分割について協議をしました。しかし、姉は寄与分を主張するなどして、交渉がまとまりませんでした。
そこで、当事務所はお客様を代理して家庭裁判所に遺産分割調停の申立をしました。調停における話し合いの中で、姉はマンションの取得を希望したため、不動産業者の査定書2通から算出した時価をもとに代償金について協議をしました。その結果、姉からお客様に支払う代償金の額を合意するできましたが、問題は姉は代償金を一括で支払うことができず、分割払いにするということだったので、きちんと支払われるのかが不安でした。
結果
最終的に合意のとおりの代償金を姉から受領するとうい内容の調停が成立しましたが、姉による代償金の分割払いに不安があったため、姉が取得するマンションに一番抵当権を設定する内容の調停条項にしました。その後、姉は約束どおり代償金全額を支払ったので、抵当権は解除しました。
処理のポイント
代償金を取得する遺産分割協議を成立させる場合、金融機関からの取引明細の取得や不動産業者の査定書などにより、遺産の内容や評価額を確定し、適正な請求金額を算出することが重要ですが、それと同様に重要なのが、約束した代償金が確実に支払われる手段を確保するということです。調停手続で分割払いの約束をしても、相手が支払を怠ると、強制執行に適する財産を特定して、差押の手続をしなければなりません。もし、相手方が財産を親族など他人の名義にしてしまうと、強制執行が不可能になり回収不能となる可能性があります。そのため、特に分割払いで代償金を受け取るときには、支払い担保する手段が必要になります。本件のように抵当権を設定しておけば、支払いがない場合、仮に相手方が不動産を他人の名義にしたり、あるいは、新たな抵当権を設定したとしても、簡単に競売手続により代償金を回収することができます。そして、そのような強力な保全措置をとっていれば相手方も滞納せずに弁済するのが普通です。
当事務所が過去に依頼を受けたお客様で、当事務所依頼前に相続人同士で代償金支払いの約束をしたのに、支払ってもらえず当事務所に依頼することになったという方がいらっしゃいました。この方の場合、仮差押え、訴訟手続、強制執行など多数の法的手続をしなければならなくなり、最終的にきちんと回収できたものの、余分な訴訟費用等が発生してしまいました。