遺産全体が分からない状況で遺留分請求をした事例
1 事案の内容
お客様のお母様が亡くなり、相続人はお客様と姉妹2名の合計3名でした。公正証書遺言があり、その内容は財産を妹の一人に全て相続させるというものでした。お客様は、妹に対し、遺留分侵害額請求を行う旨伝えると共に、遺産資料の開示を求めていました。しかし、妹から遺産資料の開示もなければ、お客様からの連絡にも応答しない状況にありました。
お客様は、遺産としてどのようなものがあるかも分かっておらず、また、協議に応じようとしない妹の対応に困ってしまい、当事務所にご依頼なさいました。
2 当事務所の活動内容
まずは、お客様で把握している情報の確認から始めました。遺産の全体像が分からなくとも、例えば、実家などの不動産所有の有無などは分かることも多いと思われます。本件も、お母様が不動産を所有していたことはお客様も把握していたため、不動産の調査から始めました。すると、相応の価値を有する不動産であることが確認できました。相続案件の場合、基礎控除(現行法:(3000万+法定相続人の数× 600万))を越える遺産がある場合、相続税の申告義務が生じます。
本件でも、相続税の申告が必要な規模の案件だったこともあり、妹にて相続税申告を行っている可能性が極めて高い事件といえました。
そこで、当方側は、不動産の調査結果を踏まえた上での遺留分侵害額請求の通知を送付すると共に、相続税申告書の写しの提供を要請しました。
3 結果
妹より相続税申告書の提供を受け、遺産全体を把握することができました。その上で、適正な遺産評価を算出し、お客様は遺留分相当額の金銭を取得することができました。
妹から提供のありました相続税申告書の内容を確認すると、不動産以外に複数の預貯金を確認することができました。当方側で該当する預貯金の取引履歴を取り寄せ、不自然な出金がないか調査も行いました(結果的に怪しい出金などはありませんでした)。
一方で妹は、本件不動産の所在地周辺の取引事例を持ちだし、当方側の主張する不動産評価について異議があるとの主張をしていました。しかし、妹の持ち出した取引事例は、いずれも公道に接する面が狭い土地であったり、地積面積が極端に広い物件(一般的に地積が大きい物件となると一般消費者には売りにくくなるため、売却金額が下がる傾向にあります)でした。
当方は、妹が主張する取引事例は、本件不動産評価を行うにあたっては参考とすべきでないことを説明し、最終的にお客様の納得がいく不動産評価額で合意することができました。
4 処理のポイント
本件は、相続税申告が必要な事案であったため、最終的に遺産の全体像を把握することができました。本件のように遺産の全体像が分からなくとも、分かる所からでも調査を進めることが重要といえます。
また、相手方に遺産資料の開示を求める際には、資料の共有が不可欠であることを理解してもらうことも、早期解決に必要な事項といえます。