預金の使い込みをされたとき、どのように請求額を計算しますか?
1 預金の使い込みがあった場合の権利関係
被相続人の生前に、相続人の1人が、無断で多額の預金を引き出しているケースはよくあります。
そのような場合、被相続人は引き出された預金について、不当利得返還請求権または損害賠償請求権を持つことになります(つまり、引き出した相続人に金銭の返還を求める権利を持ちます)。
この金銭の返還請求権が、相続により、法定相続分に従い相続人に分割して承継されることで、他の相続人は金銭を引き出した相続人に、法定相続分に応じた金銭返還請求権を持ちます。
詳しくは預金を使い込まれてしまった場合の対処法をご覧ください。
2 計算の難しさ
金銭の返還請求ができる理屈は理解できても、いくら請求できるのかを計算をすることは意外と難しいものです。
たとえば、被相続人は複数の銀行口座を持っており、それぞれの口座によく分からない入金と出金が多数回ある場合など、計算が複雑です。
長年に渡って、累計数百回の入金と出金がある場合も珍しくなく、何をどのように計算するべきか迷うものです。
たとえば、次のような方法で計算する方がよくいますが、厳密な計算ではなく、訴訟手続になった場合に、立証が不十分と見なされる可能性があります。
【よくみる計算方法】
相手が預金管理を始めた時期の預金残高 4000万円…①
死亡時の預金残高 1000万円…②
死亡までの収入(年金) 約20万円×30回=600万円…③
死亡までの生活費 月約8万円×60か月=480万円…④
使い込まれた金額 ①-②+③-④=3120万円
このような計算でも、おおよその引出額は分かりますが、あくまでもおおよその金額で正確ではありません。死亡までの生活費は毎月変動するのが普通だし、期間が長い場合、イレギュラーな入出金が多数あるのが普通なので、これらも全て計算に入れると計算は複雑で分かりづらいものになります。
また引き出した金額を全て合計していくとしても、口座間の資金移動を考慮する必要があり、しかも時期がずれて資金が移動されている場合などは、計算が難しくなります。
3 正しい計算方法
以上を踏まえて当事務所が採用している計算方法は次のとおりです。
ア 全ての口座の使途不明の出金額を合計する
イ 全ての口座の入金のうち、原資の不明な現金の入金を合計する
引き出された金銭が、再び口座に戻されている可能性を考慮する必要があるために集計します。そのため、年金収入、定期預金・保険等を解約して入金された金銭など、入金の理由が分かっているものや、引き出された金銭が戻されている可能性のないものは、集計しません。
ウ アからイを引いた金額を出金額の合計とする。
4 計算書の作成方法
文章による説明だと分かりづらいため、実際の計算書の例を以下に示します。
年度毎に入金と出金をまとめて行くと、どの時期にどのくらいの金額が引き出されたのかがわかります。
入金について、引き出した金銭から戻したものではないかもしれません。しかし、不当利得返還請求権の額は、訴訟になった場合、原告が立証しなければなりません。そのため、相手方から入金は引き出した金銭を戻したものだと主張された場合、これを覆す立証ができないため、引き出した金銭から戻した可能性がある入金は控除して請求をする方が無難です。