配偶者への居住用不動産の贈与と特別受益(令和元年7月施行の法改正)
目次
A 婚姻期間が20年以上の配偶者に対し、居住用不動産(居住用の建物または敷地)を贈与または遺贈(遺言で財産を譲ること)した場合、被相続人が持戻し免除の意思を表示したものと推定されます。
1 特別受益とは
相続人の中で、生前に被相続人から①生計の資本として財産の贈与を受けた者がいる場合、または、②遺言で被相続人から財産の遺贈を受けた者がいる場合、贈与または遺贈の評価額は、その相続人の特別受益として扱われます。
「生計の資本としての贈与」とは生計の維持の基盤となる財産上の贈与を意味しますが、広く解釈されており、生活の基礎として役立つ金銭その他の物の贈与は広く含まれます。
2 持戻しとは
特別受益がある場合、遺産の総額に特別受益の評価額を加えたものを相続財産の総額とみなし各相続人の具体的相続分を計算します。特別受益のある相続人の具体的相続分は、相続財産の総額とみなした金額にその相続人の法定相続分を掛け、さらに、これから特別受益の額を差し引いた金額となります。これを特別受益の持戻しといいます。
特別受益の持戻しをする場合の計算方法はこちらをご覧下さい。
しかし、被相続人が、持戻し免除の意思を表示した場合、この特別受益の計算は行いません。この持戻し免除の意思表示は遺言で行う必要はなく、黙示の意思表示による持戻し免除の意思表示を認めた裁判例があります(東京高裁決定昭和57年3月16日、東京高裁決定平成8年8月26日)。
持戻し免除の意思表示がある場合の計算例はこちらをご覧ください。
3 持戻し免除の意思表示が推定される場合
婚姻期間の長い夫婦間で居住用不動産の贈与などがあった場合、その趣旨は、配偶者の生活保障を図る趣旨であることが多く、贈与等がされた不動産を配偶者の特別受益として持戻して、配偶者の相続分が減少すること、被相続人は想定していない場合が多いと考えられます。
そのため、2019年7月1日施行の改正民法第903条第4項は、婚姻期間20年以上の夫婦間で、居住用不動産(居住用の建物または敷地)の贈与または遺贈があったとき、持戻し免除の意思表示を推定すると定めています。
4 推定を覆すことは可能
持戻し免除の意思表示は推定されるだけなので、被相続人が持戻しの免除をしないという意思を表示した場合には、持戻し計算をすることになります。この持戻しの免除をしないという意思表示は黙示の意思表示でもよいとされています。
5 特定財産承継遺言の場合
「特定財産承継遺言」(「相続させる」という記載によって特定の財産を特定の相続人に承継させる遺言)は、実務では遺贈と同様に特別受益と扱われているため(第4版 家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務 片岡武/管野眞一編著 日本加除出版536頁)、特定財産承継遺言により配偶者が居住用不動産を取得した場合も、遺贈と同様に考えて問題ありません。